ルイヴィトンが市松模様を主張?海外の反応とその背景を振り返る

フランスの高級ブランド・ルイヴィトンが、日本の仏具店に対して「市松模様のデザインが自社の商標“ダミエ柄”に似ている」として使用中止を求めた――

このニュースが報じられると、日本国内だけでなく海外でも大きな反響を呼びました。

伝統的な和柄と世界的ブランドの商標権がぶつかった今回の事例。

SNSや海外メディアでは「文化盗用か?」「権利主張の行き過ぎか?」といった議論が広がり、文化と知的財産の境界線をあらためて問い直すきっかけとなりました。

この記事では、この問題の背景や特許庁の判断、そして海外の反応や専門家の見解までを詳しく整理し、現代のブランド戦略と文化的意匠のあり方について考察します。

目次

市松模様とルイ・ヴィトンのダミエ柄は何が違う?

市松模様ルイ・ヴィトンのダミエ柄──見た目はよく似た格子状のパターンですが、それぞれの模様にはまったく異なるルーツと意味が存在しています。

ここでは、まず日本に古くから伝わる市松模様の背景を紹介し、その後、ルイ・ヴィトンがブランドの一部として使用しているダミエ柄について見ていきます。

市松模様ってそもそも何?歴史と意味を簡単に

市松模様(いちまつもよう)とは、正方形を交互に配置した、いわゆる「チェッカーパターン」のような模様です。

日本では江戸時代から親しまれてきた伝統文様で、もともとは「石畳模様」とも呼ばれていました。

この模様が「市松模様」として知られるようになったのは、歌舞伎役者・佐野川市松が舞台衣装としてこの柄の袴を履き、人気を博したことがきっかけ。

以来、名前ごと広まり、着物や和小物などさまざまな場面で使われるようになりました。

市松模様には、「途切れず続く」=繁栄や発展の象徴という縁起の良さも込められており、現代では東京オリンピックのエンブレムなどにも使用されるなど、日本文化の象徴的なパターンとして世界にも知られています。

ルイ・ヴィトンのダミエ柄ってどんなもの?

一方のルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)は、1888年にブランドの一部としてこのダミエ柄(Damier)を発表しました。

「Damier」はフランス語で「チェッカーボード」を意味し、文字通り正方形が交互に並んだシンプルなデザインです。

ただし、ダミエ柄は単なる「四角模様」ではなく、キャンバス地にプリントされ、ブラウンやグレー系の色調、ロゴとの組み合わせなどで独自性が打ち出されています。

当時、模倣品対策としてオリジナルデザインを模索していたヴィトン家が考案したこのパターンは、後に復刻版(ダミエ・エベヌ、ダミエ・アズール)としても展開され、モノグラムと並ぶブランドの代表的柄となっています。

それぞれの模様が似てると話題になったきっかけ

見た目が似ているとはいえ、市松模様とダミエ柄には文化的にも歴史的にも明確な違いがあります。

それでも両者が比較されるようになったのは、ある出来事をきっかけに“対立構造”として認識されたからです。

2020年、ルイ・ヴィトンが日本の仏具店に対し、「数珠袋の模様がダミエ柄に似ている」として警告書を送ったことが発端でした。

その模様は、日本の伝統的な市松模様を用いたものでしたが、LV側は商標権の侵害を主張。

この警告が報じられると、SNS上では「ルイ・ヴィトンが日本文化をパクったのに、今度は逆に主張してきた?」といった声が広がり、一気に注目を集めることになります。


次の章では、この問題がどのように“トラブル”へと発展していったのかを掘り下げていきます。

ルイ・ヴィトンが市松模様を“主張”?日本で起きた商標トラブル

市松模様とルイ・ヴィトンのダミエ柄が「そっくり」と言われるようになったのには、ある現実のトラブルがきっかけでした。

日本の伝統文様である市松模様に対して、世界的ファッションブランドであるルイ・ヴィトンが“商標侵害の疑い”をかけたのです。

問題の核心には、「文化は誰のものか?」「デザインはどこまでが共有財産で、どこからがブランドの権利なのか?」という根深いテーマがあります。

ここでは、数珠袋を巡る警告から、日本の特許庁の判断、SNS上の反響までを時系列でたどっていきましょう。

数珠袋が引き金?
ルイ・ヴィトンが出した警告とは

この騒動が表面化したのは2020年

東京・浅草のある仏具店が販売していた、市松模様をあしらった「数珠袋」に対して、ルイ・ヴィトンの代理人弁護士が正式な警告書を送付しました。

その内容は明確で、「この模様は当社の商標であるダミエ柄に酷似しており、商標権を侵害している可能性があるため、販売を中止してほしい」というもの。

この仏具店が使っていたのは、日本に古来から伝わる一般的な市松模様の織り柄であり、ブランドロゴもなく、装飾も伝統的なものでした。

販売されていたのも、いわゆるファッションアイテムではなく、あくまで宗教用途や贈答用に使われる伝統工芸品です。

にもかかわらず、世界的ブランドから「それ、ウチのデザインに似てるよね」と言われたわけですから、関係者にとっては驚きと困惑が広がりました。

仏具店側は「これはあくまで伝統文様であり、ブランドのデザインとは関係ない」として、特許庁に対して異議申し立て(商標無効審判)を行うことになります。

特許庁の判断は「市松模様は伝統文様」だった

日本の特許庁は、約1年にわたる審査の末、ルイ・ヴィトンの主張を退ける判断を下します(2021年6月)。

その主な理由は以下の通り:

  • 市松模様は日本に古くから存在する「伝統的・公共的なデザイン」であり、誰かが独占できるものではない
  • ルイ・ヴィトンが商標登録している「ダミエ・キャンバス」は、配色・素材・ロゴ配置など特定の要素を含んで初めて商標として成立する
  • 今回問題とされた数珠袋の模様は、そうした「ダミエ柄の構成要素」とは明らかに異なる

つまり、「見た目が似ているからといって、伝統文様を全体として商標で囲い込むことはできない」という判断が下されたわけです。

この判決は、ブランド保護の重要性を否定したわけではなく、むしろ伝統文化と知的財産のバランスを取ったものともいえます。

しかし、ファッションブランドが宗教用品にまで警告を出すという構図は、多くの日本人にとって“違和感”を抱かせるものでした。

日本のSNSでも「それって商標なの?」とざわつく

このニュースが報じられると、TwitterやYahoo!ニュースのコメント欄を中心に、瞬く間に話題が拡散しました。

実際の反応は以下のようなものでした:

  • 「市松模様って、うちの浴衣にもあるけど…それもアウトなの?」
  • 「ルイ・ヴィトン、今さら何言ってんの?逆に日本の模様をマネしてたのはそっちでは?」
  • 「仏具にクレームつけるなんて、さすがにやりすぎでしょ…」

中でも多かったのは、「模様にも権利があるの?」という根本的な驚きと、「日本の文化が軽んじられているように感じた」という感情的な反発です。

この出来事がより広範な“文化とビジネスの衝突”の象徴として捉えられるようになりました。


このように、ルイ・ヴィトンによる“商標の主張”は、結果としてブランドイメージにとっても決してプラスとは言えない影響を与えました。

そしてこの出来事は、日本だけでなく、海外でも注目され、議論を巻き起こすきっかけとなっていきます。

次の章では、海外メディアやSNSでこの問題がどのように受け止められたのかを見ていきましょう。

ルイ・ヴィトンと市松模様問題に対する海外の反応まとめ

ルイ・ヴィトンと日本の伝統文様「市松模様」をめぐる商標トラブルは、やがて日本国内だけでなく世界各国で注目を集める話題となりました。

問題の本質は、「似たデザインかどうか」ではなく、“文化は独占できるのか?”という根本的な問いにあります。

このセクションでは、海外メディアの報道内容やSNSでのユーザーの反応を紹介しながら、世界がこの問題をどう受け止めたのかをひもといていきます。

海外ニュースはどう報じた?「文化的独占」に懸念も

海外メディアはこの一件を単なる商標トラブルとし、大手の海外メディアが積極的に報道した例は確認できません

しかし、知的財産に関する海外の専門メディアや情報ソースでは、日本の特許庁の判断が紹介されています。

英語版WikipediaのLouis Vuittonの項目には、以下のように記載されています:

In 2021, the Japan Patent Office rejected Louis Vuitton’s claim, stating that the designs of the juzu pouches and goshuin-chō were based on ichimatsu moyō , a traditional Japanese checkered pattern, and did not constitute an imitation of Louis Vuitton’s design.

👉 日本語訳:
「2021年、日本の特許庁はルイ・ヴィトンの主張を退けた。理由は、その仏具店が使っていたデザインは“市松模様”という日本の伝統的な格子柄に基づくものであり、ルイ・ヴィトンの模倣には当たらないと判断されたためである。」

このように、海外では日本の伝統模様が商標権とぶつかった事例として、静かに取り上げられていることがわかります。

ただし、記事や論評の数は非常に限られており、一般ニュースとして大きく取り上げられたとは言えません

SNS上では議論が盛り上がらず、海外での反応は限定的だった


日本国内では、ルイ・ヴィトンが市松模様を商標侵害と主張した件に対し、Twitterやニュースコメント欄を中心に、「市松模様に商標?」「伝統文化を企業が囲い込もうとしているのでは?」といった反応が相次ぎました。

一方で、英語圏のSNS(RedditやXなど)では、この話題は大きな注目を集めたわけではなく、明確な対立構造や議論が可視化されるような状況は確認されていません

検索結果やスレッドの動向を見ても、「Ichimatsu」「Louis Vuitton」「Damier」などのキーワードに基づく活発なユーザー同士の議論や拡散投稿は見られず、海外ではごく一部のメディアが事実を淡々と伝えたにとどまっています。

これは、以下のような要因によると考えられます:

  • 市松模様というモチーフ自体が、日本文化に馴染みのない人々にとって識別しにくいものである
  • 争点が大規模訴訟ではなく、個人商店との商標審判であったため、国際ニュースとしての拡散力が弱かった
  • 一般消費者にとっては、ブランドバッグの模様と仏具袋のデザインの関係がイメージしづらい

そのため、今回の件は、文化盗用や知財をめぐる国際的な論争の“火種”にはなりませんでした

しかしながら、この一件が示した構造──つまり、「文化的意匠をグローバルブランドがどのように扱うか」という問題自体は、過去にも他のケースで繰り返されており、今後も注視されるべきテーマであるのは間違いありません。

商業が複雑に絡み合った国際的な感覚のズレです。

「伝統をきっかけに注目されるのは良いこと」という声も

こうした対立的な意見だけでなく、中立的・前向きな立場をとる声も少なからず見られました。

  • 「このニュースのおかげで、日本の市松模様という文化を知ることができた。素晴らしい意匠だ」
  • 「文化は守られるべきだけど、同時に広く知られることも価値がある」
  • 「ブランドと伝統文化が共存する道を考えるきっかけになるなら、むしろ意義ある議論だったのでは?」

このような視点は、「伝統文化はただ守るだけではなく、開かれたかたちで発信・共有していくことも大切だ」というバランス感覚に基づいたものです。


海外の反応を通して浮かび上がってくるのは、伝統的な意匠や文化が、現代のグローバル経済や法制度の中でどう扱われるべきかという本質的な問いです。

そしてそれは今後、ファッションやデザイン業界全体にとっても無視できない論点になるでしょう。

伝統文様とブランドの線引きは?ルイ・ヴィトン騒動が投げかけた課題

市松模様とルイ・ヴィトンのダミエ柄をめぐる一連の問題は、最終的に日本の特許庁が「市松模様は公共的な伝統文様であり、商標権の対象外」と判断することで決着しました。

しかし、この判断は単なる“勝ち負け”ではなく、もっと深いところにある問題──すなわち、伝統文化とブランド戦略の境界線をどう引くべきかという問いを私たちに残しました。

このセクションでは、知的財産や文化論の観点から見た「模様の所有」をめぐる課題を整理していきます。

知的財産ってなに?ブランドはどこまで守れる?

まず前提として、ブランドが自社のデザインやロゴを守るために商標登録や意匠登録を活用することは当然の権利です。

ルイ・ヴィトンも、1888年にダミエ柄を発表して以降、複数の構成要素(色・素材・ロゴ配置など)を含む形で商標として登録しています。

たとえば日本においても、下記のような意匠・商標登録がされています。

  • 商標登録第5127997号:ダミエ柄に該当(市松状の模様と配色含む)
  • 商標の使用対象:バッグ、財布、小物などの皮革製品

しかし、知的財産法上、商標が保護できるのはあくまで「識別性がある」=それを見ることで「そのブランドのもの」とわかる特定性があるデザインに限られます。

今回のように、「市松模様」という日本文化に広く根付いたパターンを、単純な見た目の類似だけでブランド権利として主張しようとすると、保護範囲を逸脱する可能性があるということが、特許庁の判断で明示されたのです。

つまり、ルイ・ヴィトンが商標登録しているのは、単なる市松模様ではなく、「色・素材・ロゴ配置」などを含めた特定のデザイン(ダミエ柄)です

市松模様そのものは日本の伝統文様であり、一般に広く使われてきたものなので、それ自体を誰かが独占することはできません。

簡単に言えば、商標で守られるのは“特定のブランドっぽさ”であって、伝統的な模様そのものではないということです。

市松模様はダミエ柄ではないので、ルイ・ヴィトンの商標登録の保護対象には含まれません。

日本の特許庁もこの点を重視し、「市松模様はみんなのもの」としてルイ・ヴィトンの主張を退けました。

専門家の見方:「伝統模様に商標は難しい」?

ルイ・ヴィトンが日本の仏具店に送った警告書をめぐり、「伝統模様に商標を適用することの妥当性」が改めて注目されました。

この件に対し、日本の特許庁は「市松模様は出所識別力を有しない(=どのブランドかを示す力がない)」と明言し、商標侵害にあたらないと判断。

この判断は、知財実務における基本的な理解とも合致しており、専門家からも一定の見解が示されています。

特許庁の公式判断

前述もしていますが、「判定2020-695001」によると、市松模様は「我が国において広く知られ、一般的によく見られる装飾的な地模様である」とされ、ルイ・ヴィトンの商標権(ダミエ柄)とは別物であると判定されました。

💬 専門メディアの所感:行きすぎた権利主張?

Authense IP 記事より

Authense IP の解説では、商標実務に携わる筆者の所感として次のようなコメントが付されています:

「本事例に関しては、日本の伝統的な市松模様の数珠入れにまで商標権を主張するのは、さすがにやり過ぎではないか、という声も多かったように見受けられるものの、ルイ・ヴィトンのブランド保護に対する強固な姿勢が伺えます。 」
Authense IP 記事より

また、ルイ・ヴィトンの行動については、「すべての“似たデザイン”が違法とは限らない」ことにも注意を促しています。

商標侵害を主張された側の注意点

同記事ではさらに、商標権侵害を主張された側のリスク対応について、以下のようなアドバイスが添えられています:

  • 警告を受けてすぐに販売停止や謝罪をすると、かえって不利になるケースもある
  • 一見似ていても、必ずしも商標侵害に該当するとは限らない
  • 特許庁の判定制度など冷静で制度的な対応を取ることが重要

このように、今回の事例は「商標を主張する側」と「主張される側」双方にとって実務的な学びが多いケースであると専門家は指摘しています。

今回の事例を通じて明らかになったのは、市松模様のような伝統的なデザインは、原則として誰もが使える共有財であり、特定の企業が商標として独占するのは難しいという点です。

また、商標の効力が及ぶ範囲は、「そのデザインが消費者にとってブランドを識別できるかどうか」によって決まります。

さらに、知財専門家は「行きすぎた権利主張は逆効果になり得る」と警鐘を鳴らすとともに、警告を受けた際には冷静に法的制度を活用すべきと助言しています。

このように、伝統文化と知財保護が交差する場面では、一方的な主張ではなく、制度的・文化的な背景をふまえたバランス感覚が求められることがわかります。

まとめ:ルイヴィトンと市松模様の商標問題、海外の反応が映す“文化と権利”の境界線

ルイヴィトンが日本の仏具店に警告を出した一件は、市松模様という伝統文様を巡る商標権の限界と文化の共有性に注目が集まりました。

特許庁は「市松模様は広く知られた装飾柄であり、商標の識別力を持たない」として、ルイヴィトンの主張を退けています。

つまり、伝統模様を理由に商標侵害を問うことは制度的に難しいという判断です。

海外でもこの件は報じられ、「文化盗用か」「ブランド防衛か」といった意見が交わされました。

特に欧米では、伝統意匠の扱いに関しては慎重であるべきだという声も少なくありません。

今回の問題は、文化と知的財産の境界がどこにあるのかを問い直す事例となりました。


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